2016年2月21日日曜日

「研究」とは (仕事内容)

研究活動には、大別して4つの活動があります。

一つは「研究の立案」です。
 研究活動の主要で根本的な動機には「知的好奇心」と「社会貢献」、「名誉欲」、「金銭欲」の4つがあります。研究者によってそのいずれか、もしくは複数の動機により、研究活動を始めます。「何を知りたいのか?」「それが分かると何が面白いのか?」「社会にどんなインパクトがあるのか?」「誰がその成果を気にするのか?」「ノーベル賞が取れそうか?」「教授になれそうか?」「特許が取れそうか?」各人の欲望に従い様々なことを考慮しながら、これまでの知見を徹底的に調べ上げた上で、自分の研究テーマを決めます。次に、具体的にどんな実験をすればそのテーマの答えを出せるのかを考えます。
 これらのプロセスは、その後展開する研究活動の「設計図作り」とも言える、大変重要な知的活動です。基本的に半年ほどの時間をかけて一旦完成させ、次の活動に移行しますが、その後出てくる自分自身で行った実験結果や、他の研究者の研究報告などに合わせて随時修正する活動を続けます。

次は、実験を行うための「資金の獲得」です。
 実験を行うためには様々な試薬や器具、装置が必要です。それらは高価なものが多く、例えば大型の装置になると1000万円ほどかかることも珍しくありません。それら試薬や装置を購入する資金を獲得するために、国や民間企業の研究支援の公募に申請します。申請の際には、研究目的や研究計画、過去の実績などを記載した書類を提出する必要があり、それらを元に審査されます。採択率は公募の種類によってかなりの差がありますが、科研費補助金などの国の主要な公募の場合は30%程度、民間の場合は10%程度です。「さきがけ」などの高額な支援を受けられる一部の公募では、採択率が1%以下というものもあります。最近ではクラウドファンディングなどを活用して、一般の方からの直接の寄付を募る方法も定着しつつあります。
 このような様々な機会を利用して、研究計画の遂行に必要な研究資金を獲得します。申請準備自体にかかる時間は1ヶ月程度ですが、審査結果が出て実際に資金が使えるようになるまでに半年ほどかかります。

次はいよいよ「実験の遂行」です。
 基本的に「資金獲得」の申請書に記載した内容に沿って実験を始めますが、多くの場合、想定していた通りの結果は出てきません。随時、出てくる結果に合わせて次の実験計画を修正しながら進めます。
 研究活動全体のうちこの活動が最も時間のかかる部分で、一人で行う場合、通常3-4年はかかります。

最後に「成果の報告」です。
 「実験の遂行」結果をまとめて、国内外の学会で発表したり、国際誌に投稿したりします。これを完遂して初めて、これまでの活動が「業績」として評価されるようになります。学会での発表はほとんど意味がありませんが、他の研究者とのコネを作る上ではいい機会になります。そのコネによりポスドクから助教への昇進が決まったり、次の共同研究が決まったりします。最も重要なのは国際誌へ投稿し、受理してもらうことです。国際誌と一言でいってもピンキリで、どのレベルの雑誌に掲載されたかによって、その仕事への評価がまるで変わってくるのが現実です。ですので、いわゆるトップジャーナルといわれるCell, Nature, Scienceなどの雑誌に自分の研究成果を掲載してもらうことが、多くの研究者の目標になっていたりします。
 仕事の成果が国際誌に受理された時点で、一連の研究活動がひとまず完了、となります。投稿の準備におよそ半年、そこから受理されるのに半年から1年程度かかるのが一般的です。

このように、一連のひとまとまりの研究活動は、全体としては6-7年の時間と、人件費を除いて1000万円以上の資金を費やして完成されます。多くの研究者は、このようなひとまとまりの研究活動を2つくらい並行して遂行しています。

なお、ここでは一人の研究者が最初から最後まで一人で完遂するような表現になっていますが、実際はこれを研究室や数人からなるチーム単位で進めることが一般的です。大学院生やポスドクはこの一連の4つの活動全てに参加し、先輩の指導を仰ぎながら様々なスキルを学んでいくことになります。
 ただ、研究室によってはこれら活動は分業化されており、例えば最初の「研究の立案」と「資金の獲得」、「成果の報告」は主に教授やリーダーなどのボスが行い、ポスドクや大学院生は主に「研究の遂行」に従事していたりします。いわゆる「ブラックラボ」と呼ばれる研究室ではこの分業化が極端に進んでおり、ポスドクや大学院生がまるで奴隷や機械のように長時間働かされて、挙げ句の果てに成果は全部ボスに吸い取られたりますので、研究室を選ぶ際には十分な注意が必要です。

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